富山でピストン藤井として活動するライターの藤井聡子さんが、初の単行本「どこにでもあるどこかになる前に。~富山見聞逡巡記~」の出版を記念したトーク&スライドショーを10月27日、「市民プラザ」(富山市大手町)で開催した。
ルポエッセー「どこにでもあるどこかになる前に。~富山見聞逡巡記~」(里山社、2,090円)は、再開発が進む富山の街に対する違和感や、独身というだけで浮いてしまう自身の立ち位置に戸惑いつつ、強烈な個性を放つ人々との出会いを通して、居場所を見つける過程がつづられる。
今回のイベントでは藤井さんと、編集を担当した出版社「里山社」の清田麻衣子さんが登壇。同書にまつわる制作裏話を披露した。清田さんはかつて東京で、雑誌編集に携わっていた藤井さんの元同僚。2016(平成28)年9月に休館した富山唯一のミニシアター「フォルツァ総曲輪」の存続を訴える藤井さんの言葉を聞き、「無駄なものを排除していく動きは富山に限ったことではない。日本全体の問題」と捉えた。その後、ピストン藤井ではなく本名の藤井聡子として、富山に関するルポの執筆を藤井さんに打診したと経緯を話した。
藤井さんは「地元に居ながら地元のことを書くのは怖いし、とても勇気がいる。絶対に書きたくないと思った」と当時を振り返り、「藤井聡子としての新しい文章のスタイルがなかなか定まらず、表に出せるまでに9カ月かかった」と清田さんが苦労話を披露した。
北陸新幹線が開業する以前の富山駅周辺や、富山大空襲の遺構として知られたデパート・富山大和、駅前シネマ食堂街といった懐かしい風景のほか、藤井さんが愛してやまない富山の酒場、ユニークな県民たちの姿をスライドショーで紹介した。休館する直前のフォルツァ総曲輪で開催された音楽フェス「Fujii Rock Fes 2016見切り発車の郷土愛リサイタル」のライブ映像や、吉田類さんに扮(ふん)した藤井さんが富山の酒場を巡る「ピストン藤井の酒場放浪記」といった貴重映像も披露され、会場は笑いに包まれた。
失われた場所や、亡くなった人たちに関する場面では、「この街にいた人たち、場所のことを本に残すことができた。それが何よりもうれしい」と藤井さんが涙ながらに思いを吐露した。「これからも細く長く、街の記憶を書き留めていきたい」と締めくくった。
11月23日には石川・金沢の書店「石引パブリック」で、古書店「オヨヨ書林」の店主・山崎有邦さんと藤井さんの対談が行われる。