味わい深い昭和のムードを色濃く残し、県内外から人気を集めた富山駅前の食堂街が、半世紀以上にわたる歴史に幕を閉じた。
映画館と飲食店を併設したスポットとして、富山駅前に誕生した富劇ビル(昭和25年開店)と駅前シネマ食堂街(1959年=昭和34年開店)。それぞれ映画館が閉館した後も、居酒屋、中華店、すし店、スナックは営業を続け、時代の移ろいを見つめ続けてきた。しかしビルの老朽化や、北陸新幹線開通に伴う駅前再開発によって取り壊しが決定。富劇ビルは4月30日、駅前シネマ食堂街は5月31日、全ての店舗が営業を終えた。
富劇ビルで47年間、客を魅了してきた居酒屋「初音」の経明(つねあき)・尚江さんは夫を亡くした後、ひとりで店を切り盛りしてきた。常連客も一見客も平等に接する経明さんの心温まるおもてなしと昆布締めにはファンが多く、営業最終日にはカウンター8席に対し30人を超える客が押し寄せた。閉店時間の22時を迎え、涙ぐむ客らを前に、「大勢のお客さんと、天国のお父さんに支えられて、これまで続けることができました。ありがとうございました」とあいさつした経明さん。今後は息子家族の住む上市町に引っ越し、農作業にいそしむ日々が待っている。
駅前シネマ食堂街の「寿司晴」は、気さくな人柄で知られる店主・牧野晴夫さんのトークと、鋭い目利きによるアジ、サストロ、梅貝などの新鮮なネタが人気の有名すし店。最終日には、ひっきりなしに客が訪れ、朝方までにぎわった。福井からやって来たという男性客は「出張で富山に来たら、この店に寄るのがお決まりだった。すしを食べながら、大将や初めて会ったお客さんと会話するのが楽しみだったのに、無くなるのは寂しい」と名残惜しそうに話した。今後の営業は未定だが、新天地での再会を熱望する客は多い。