下新川郡入善町の「下山(にざやま)芸術の森発電所美術館」(入善町下山)で7月14日、ドイツ人現代美術作家のフロリアン・クラールさんによるアート展「Waldmärchen(ヴァルトメルヘン)」が始まった。
1968年生まれ、ドイツ南西部にあるシュツットガルト出身のクラールさんは、国立シュツットガルト芸術大学院彫刻科を卒業。1990年代半ばより神奈川県を拠点に活動し、武蔵野美術大学、多摩美術大学で彫刻科の非常勤講師を務めた。音楽や科学、数学に基づき、公共空間を取り混ぜた彫刻作品を多く手掛け、日常の風景や建築物に潜む幾何学的構造を意識させる作風が特徴。金沢21世紀美術館の恒久展示作品「アリーナのためのクランクフェルト ナンバー3」も手掛けた。
1926年(大正15)年に建設されたレンガ造りの水力発電所を再生した、全国でも珍しい「発電所美術館」で行われる同展。発電用のタービン、導水管が残された独特の雰囲気を漂わせる展示スペースは、数多くのアーティストの展示を定期的に行っている。
クラールさんは「1年前、友人の個展で初めて来たときは建物の構造や屋根の形が印象的で、自分の故郷に戻ったような感覚になった」と振り返る。展示の1カ月前から入善に滞在し、6月30日から3日間、公開制作を行ってきた。
「Waldmärchen」は、ドイツ語でWald(森)とmärchen(物語)を組み合わせた言葉。同展では、発電所美術館の構造を基に作られた新作を公開。古代から現代にまたがる時間的な隔たりや、虚構と現実、作者個人の経験を音響や照明などの舞台装置、映像や音楽によって一つにまとめた「森の物語」を表現するインスタレーション作品を展示している。
現地で制作した高さ8メートルの巨大な木造の構造物は、照明によってさまざまな姿を表現する。館内に設置された映像作品「Tableaux(タブロー)」は発電所美術館の構造を基に作られており、欧州の古代のおとぎ話、SFのような世界観を音楽と共にコンピューターグラフィックスで表現した7種類の映像作品を公開した。
クラールさんは「今回は過去に展示した作品もあるが、照明や音響の協力もあり自分が思うような表現ができて満足している。作品にはバックストーリーはあるが、お客さんはそれを気にすることなく、作品の中に足を踏み入れてみて五感で感じてほしい。それぞれにこの空間の面白さを見つけてくれたらうれしい」と話す。
開催時間は9時~17時(入館は16時30分まで)。月曜休館(祝日の場合は翌日)。入場料は、一般=600円、高校・大学生=300円、中学生以下無料。10月8日まで。