プレスリリース

― 伝統を守るために“作り方を変える”。保護糸を使わない新しめ縄「雅(みやび)」誕生 ―

リリース発行企業:株式会社折橋商店

情報提供:

物価高騰、人口減少、神社の担い手不足。 日本の神社文化を取り巻く環境は、いま大きな転換点を迎えています。
こうした状況の中、明治43年(1910年)創業、100年以上にわたり日本各地の神社を支えてきた老舗しめ縄メーカー、株式会社折橋商店(本社:富山県射水市)は、保護糸を一切使わない独自製法を採用した新商品「雅(みやび)」を発表しました。
本商品は、実際の藁(わら)のしめ縄に極めて近い見た目と質感を追求しながら、現代の神社運営に求められる耐久性と扱いやすさを両立した新しいしめ縄です。折橋商店がこのタイミングで新商品を世に送り出した背景には、伝統文化を未来につなぐための明確な経営判断がありました。

「理想だけを語っていても、文化は続きません」

コロナ禍と物価高が同時に押し寄せる中、折橋商店は厳しい選択を迫られました。
神社行事の縮小や中止による需要の変化、原材料費や物流費の高騰。さらに、神社側も経済的・人的余力を失いつつある現実。顧客からは「現行品は値段が高くて手が出せない」という切実な声が折橋商店に届くようになりました。
「お客様も苦しい。けれど、私たちの会社も同じように苦しかった」
そうした状況下で、単純に価格を下げるために品質を落とすことは、長年積み重ねてきた信頼と、しめ縄が担ってきた文化的価値を手放すことに等しい判断でした。
そこで導き出した答えが、素材を妥協するのではなく、作り方そのものを変えるという決断でした。その結論から生まれたのが、新商品「雅(みやび)」です。





「雅」が実現した3つの革新

雅は、保護糸を一切使用しない独自製法を採用しています。藁に近い自然素材風の色味と質感を持ち、さらに耐光剤を配合することで紫外線による劣化を抑えています。屋外設置でおおよそ5年から7年、拝殿や社殿内など直射日光の少ない環境では10年以上の使用が見込める耐久性を実現しました。
この商品は単なる新商品ではなく、しめ縄という文化を続けるための現実的な選択肢として位置づけられています。

本物の藁を再現する素材技術



雅の開発において最も重視したのは「本物の藁のしめ縄に見えること」でした。一般的な合成繊維製のしめ縄は、表面に不自然なツヤが出やすく、繊維が均一すぎることで人工的な印象を与えてしまうという課題があります。
そこで雅では、素材配合の段階から見直しを行いました。ポリエチレン素材をベースにしながらも、光沢を抑えるための複合配合を施し、繊維一本一本にあえてムラ感を持たせる設計としています。さらに、実際の藁に近い繊維の太さや密度バランスを追求することで、遠目で見た際には天然の藁しめ縄と見分けがつかないほどの外観を実現しました。
色味についても、単なる黄色ではなく、青藁色、秋藁色といった自然な経年変化を思わせる色調を再現しています。これにより、神社の景観や歴史的建造物とも違和感なく調和する仕上がりとなっています。顧客からも「オレンジ色の黄金色ではなく、本物の藁に近い色合いがほしい」という要望が多く寄せられており、その声に応える形となりました。

「ツヤを消すと耐久性が落ちる」--技術的ジレンマとの格闘
一方で、合成繊維の弱点として挙げられるのが紫外線による劣化です。屋外に設置されるしめ縄は、年間を通じて強い日差しにさらされます。
雅の開発において最も困難だったのは、自然な質感と耐久性という、相反する要素の両立でした。ポリエチレン繊維のツヤを抑えるためには特殊な配合が必要ですが、その配合が耐光剤の効果を弱めてしまう可能性があります。
メーカーと何度も紫外線対抗テストを重ね、配合バランスを微調整しながら、ようやく理想の素材にたどり着きました。雅には独自配合の耐光剤を素材段階で組み込み、紫外線による分子劣化を抑制することで、色あせや繊維の脆化を防ぎ、見た目の美しさを長期間保てるようにしています。
「自然に見えるけれど、ちゃんと長持ちする」という一見矛盾する要求を、素材科学と製造技術の両面から実現したのが、折橋式製法です。

保護糸不要--現場の負担を劇的に軽減



従来のしめ縄製造では、成形時に保護糸を巻いて形状を固定する工程が一般的でした。しかしこの保護糸は、設置時に外す手間がかかる、外し忘れると凹凸部分に汚れが溜まりやすく、美観を損ねるといった課題を抱えていました。
折橋商店は、この「保護糸を外す前提で作る」という発想そのものが、現場負担を増やしていると考えました。そこで発想を転換し、そもそも保護糸を使わずに成形できないかという点から製法を再構築しました。
人の手に頼ってきた工程の一部を独自開発の機械で代替し、繊維の締結構造そのもので形状を保持する製法を確立。これにより、保護糸不要でありながら、美しく安定した形状を保つしめ縄の製造が可能になりました。

設置の手間を大幅に削減する「糸なし」の実用価値




保護糸不要という特徴は、単なる見た目の問題ではありません。神社の現場では、氏子の高齢化が進み、しめ縄の交換作業を担う人手の確保が年々困難になっています。従来のしめ縄では、設置前に保護糸を一本一本丁寧に外す作業が必要で、大型のしめ縄になるほど時間と労力がかかりました。
雅は、そのまま設置できる構造のため、作業時間を大幅に短縮できます。また、保護糸による凹凸がないため、ほこりや雨水による汚れが溜まりにくいことが特徴で、長く美しいしめ縄を保つことができます。これは、限られた人数で神社を維持する現代の氏子組織にとって、実質的な価値となっています。

コスト削減の鍵は「機械化」--品質を守りながら価格を抑える

この製法改革の背景には、同社自身の厳しい経営環境もありました。コロナ禍による祭事縮小や中止、原材料価格や物流コストの上昇、さらに先代社長が病に倒れたことで、会社は存続の危機に直面します。
「会社として、本当に続けられるのかを考えざるを得ない時期でした」
それでも折橋商店は、短期的な利益確保や安易な品質低下に走ることはありませんでした。
「品質を落とせば、一時的には楽になるかもしれない。でも、それは100年以上続いてきた会社として、やってはいけない判断だと思いました」
そこで折橋商店が選んだのは、原材料の質を高めながら、製造工程の機械化によって生産時間を短縮するという道でした。
雅に使用されている素材は、従来品よりも高品質なものです。にもかかわらず手の届きやすい価格を実現できたのは、独自開発の機械導入により人的コストを削減できたためです。

三つの選択肢が、しめ縄文化を守る








折橋商店を代表する従来品には、合成繊維製しめ縄「山吹」があります。高密度ポリエチレン繊維と耐候設計により、屋外で20年から30年近く使用できる耐久性を誇り、長期使用を前提とする神社や、交換作業を最小限にしたい現場で高い信頼を得てきました。
一方で、近年は「もう少し導入しやすい価格帯の選択肢がほしい」という声も増えてきました。神社や地域の事情が多様化した結果として、新たな選択肢が求められるようになったのです。
折橋商店では、稲藁や茅草を用いた天然繊維のしめ縄も取り扱っています。天然繊維のしめ縄は、毎年交換することで清浄を保つという日本古来の考え方に基づいた存在です。
しかし、農家の減少による藁の確保の難しさ、氏子数減少による交換作業の負担、経済的・人的制約などにより、その形を維持することが年々難しくなっています。天然繊維のしめ縄は、日本文化の原点であると同時に、現代社会とのギャップも象徴しています。
「どれが正解という話ではありません。選択肢があること自体が、文化を守ることにつながると思っています」
折橋商店は、天然繊維、山吹、雅という三つの選択肢を並立させることで、それぞれの神社、それぞれの事情に合った選択ができる状態をつくることが、文化を続けるために必要だと考えています。

しめ縄が担う、日本人のアイデンティティ

「日本に住む人は、宗教を意識していなくても、神道に触れている」と折橋社長は語ります。初詣、七五三、結婚式。人生の節目で神社を訪れる行為は、日本人の生活に深く根付いています。
しかし、神道の歴史や意味を学ぶ機会は、戦後の教育体系の中で失われてきました。世界最古の宗教とも言われる神道、そして天皇制という文化的連続性は、世界から見れば極めて貴重な存在です。にもかかわらず、当の日本人がその価値に気づいていない現実があります。
「少子高齢化が進み、農家も氏子も減っていく中で、このままでは神社文化そのものが維持できなくなる」という危機感が、折橋商店の商品開発の根底にあります。
しめ縄は、神社という場の神聖さを視覚的に示す境界のしるしです。その製造と供給を通じて、日本の美しい文化を後世に伝えていく。それが、100年企業としての使命だと折橋商店は考えています。

父から息子へ、次の100年への覚悟




新商品「雅」という名前には、先代社長である父の名前から取った一文字が込められています。コロナ禍で病に倒れ、会社も満身創痍の状態にありながら、事業を守り抜いた父への敬意。そして、自らの代で文化を未来へつなぐという覚悟。
「会社も満身創痍、父も満身創痍。それでもよく持ってくれたと、尊敬の念しかありません」
保護糸を使わず、実際の藁に限りなく近い見た目を持ち、耐光剤で長く美しさを保つしめ縄「雅」は、折橋商店が「文化を残す側であり続ける」という意思を形にした、次の100年への経営メッセージです。

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