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富山の映画人たちの「SAVE THE CINEMA」 多様な文化に触れる開かれた場=映画館を守れ

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 世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症が、富山県内でも拡大している。初確認された3月30日から感染者が急増し、4月16日現在で65人に上っている。13日には石井隆一県知事が臨時の会見を開き、「緊急事態宣言を出す厳しい段階に移りつつある瀬戸際。曜日や昼夜を問わず、不要不急の外出は控えてほしい」と県民に訴えた。より厳しい外出自粛と密閉、密集、密接を避けるよう求められているが、その「3密」の例に挙げられたのが映画館だ。補償なき営業自粛の要請に、日本各地の映画館が苦境を強いられている。

 中でもインディペンデント系の配給作品を扱う、ミニシアターの経営が危機的状況に陥っている。その窮状を救うべく、映画監督の深田晃司さん、濱口竜介さんが4月6日に「SAVE THE CINEMA」プロジェクトを発足。賛同者を募り、全国のミニシアターへの支援を求める要望書を国へ提出すると同時に、クラウドファンディング「Mini-Theater AID(ミニシアター・エイド)基金」を立ち上げた。ほかにも各地の映画館が独自の支援策を打ち出す中、富山市内の映画館の現状について関係者に聞いた。

富山で唯一、ミニシアターの役割を果たす「HOTORI×ほとり座」

 県内でインディペンデント作品を上映してきたシネマカフェ「HOTORI×ほとり座」(富山市中央通り)は、4月6日から5月8日まで休業を決断した。オーナーの田辺和寛さんによると、3月頭からシニア層の来店が減り、県内のイベントが軒並み中止になってからは客足が一気に遠のいたという。

 「3月の売り上げが前年比の半分まで減りました。4月頭にこの地区で集団感染の可能性があるとの報道を受け、お客さんとスタッフの安全面を最優先に考えた結果、約1カ月間の休業を決断しました」

1階部分が「HOTORI SANDWICH & TEA」、2階部分が「HOTORI×ほとり座」

 田辺さんはかつて東京でDJとして活動する傍ら、三軒茶屋にある音楽バー&スペース「Orbit(オービット)」でアーティストのブッキング、企画を担当していた。もともと「自分自身が商売道具」という気持ちがあり、音楽を含めた表現活動全般を生業にしたいと考え2011年に帰郷。ライブハウスを経営する「MAIRO Music」で経験を積み、2014年にほとり座の前身となるイベントスペース「HOTORI」をオープンした。

「HOTORIのコンセプトは『可能性の実験場』。お店としてというより、空間としてどう使うかがテーマでした。音楽、トーク、マルシェ、上映会、ライブペイントといった、あらゆる表現活動の場にしようと運営していました。東京時代につながったアーティストたちがパフォーマンスできる場が欲しかったですし、地元のミュージシャンとの交流も図りたかった」

 2016年には、シネマカフェ&イベントスペース「HOTORI×ほとり座」へリニューアルした。きっかけは、富山市の第3セクターが携わっていたミニシアター「フォルツァ総曲輪」の休館。田辺さんの元に「街なかの映画文化の灯を消さないでほしい」という、映画ファンたちの声が届いたからだった。同店はミニシアターとしての役割も担うようになる。俳優の井浦新さん、映画監督の豊田利晃さん、ドラァグクイーンのヴィヴィアン佐藤さんらをゲストに招いた上映会、富山に縁のある大学教授や住職、舞踏家らとのトークショーなど、多ジャンルにわたってコラボ企画を展開していく。

新たなミニシアター「ほとり座」が5月30日に開館予定


「狼煙が呼ぶ」上映時に来店した豊田利晃監督(右)と田辺さん。

 2018年には、サンドイッチと日本茶を提供する「HOTORI SANDWICH & TEA」をオープン。その後、休館中のフォルツァが組織を一新して再始動することになり、その運営も富山市側から委託された。
 
「正直、日常の全てを捧げる覚悟がないとミニシアターは続けられない。しかし娯楽的な映画や音楽を発信するだけでは、街に対する文化貢献や発展はできないと思います。ミニシアターは文化活動の一部であり、それは音楽やアートも同じ。自分自身、音楽をずっとやっていて、それらの芸術が、生活にどれだけの影響を及ぼすかを十分に知っているつもりです。その活動の一翼を担えることは幸せだと感じています」

 旧フォルツァのいすの入れ替え、床の全面敷き直し、音響設備の改修などを行い、今春4月25日に新しいミニシアター「ほとり座」が開館する予定だった。だがその矢先、コロナ禍に見舞われた。開館は5月30日に延期になった。

「自分たちも早くオープンさせたかったのですが、感染リスクを上げてまで断行するのはやはり危険だと判断しました。延期してしまったことを深くお詫び申し上げます。苦渋の決断でしたが、お客さんたちに安心して、気持ちよく映画を見に来ていただきたかった」

街なかの中堅シネコン「J MAX THEATERとやま」


「ユウタウン総曲輪」内のシネコン「J MAX THEATER とやま」

 4月16日現在、富山市中心市街地で営業している映画館はシネコン「J MAX THEATER(ジェーマックスシアター)とやま」(富山市総曲輪)のみだ。しかし同館もレイトショー枠を無くすなど、営業時間の短縮を余儀なくされている。支配人の金子倫士(のりあき)さんに話を聞いた。

「映画館が3密に当たるようなニュアンスの報道がされるようになってから、客足が落ちてきたと感じています。3月に入ってからは特に年配のお客さまが減っていき、下旬からは目に見えて客足が落ちました。加えて春休み映画の延期が次々と重なり、昨年対比で50%を割る結果となりました。富山市内でも感染が拡大していることから、このままだと通常の8~9割減となる見込みです」

 映画館を開業する際は、各都道府県が定める「興行場法」に則り、換気、照明、防湿、清潔といった衛生基準に厳重に従わなければならない。世間的には密閉空間という印象が強いが、普段から換気は徹底しているという。

「当館としての取り組みとしては、劇場入り口に消毒液を設置しています。また、お客さまに少しでもきれいな空間を提供したいと考え、ロビー並びにシアター内に業務用プラズマクラスターを導入しました。従業員の健康管理や、マスクを着用した接客、お客さまの手が直接触れる箇所について、その都度、拭き取り消毒も行っています」

 しかしだからといって感染リスクが全くないわけではなく、表立って来館を呼び掛けることもできない状況だ。

日本海側で初めて「Auro11.1ch」のサウンドシステムを導入

4月半ばのロビーの様子

 新潟・上越市に本社を置く「金子興業」が運営するJマックスは、2016年6月、総曲輪西地区の再開発ビル「ユウタウン総曲輪」内にオープンした。2階から4階まで8スクリーン、全1191席を設置。音響には「Auro11.1ch」の3Dサウンドシステムを日本海側で初導入した。朝日町にルーツを持つ気鋭監督、中川龍太郎さんの作品を積極的に上映するなど、大手にはない地方のシネコンならではの存在感を放ってきた。クラブイベント「LOVE BUZZ」のDJ  CHIGON(ちごん)さんは、同館の音響システムに太鼓判を押す。

「戦争映画『1917 命をかけた伝令』の上映では、11.1chの音響によって臨場感があふれ、自分がまるで戦時下に放り込まれたような気分になりました。『ボヘミアン・ラプソディ』では、ウェンブリ-スタジアムで大合唱するオーディエンスになれた。作品ごとに如実に体感が違うため、より記憶が鮮明に残ります。若手監督・俳優の注目作や、映画ファンの間でお薦めといわれる作品など、中規模の商業映画の上映が多いのも大きな魅力です」

 Jマックスに通うことが日常の一部だったというCHIGONさんだが、当面はコロナの影響で自粛せざるを得ないという。「仕事帰りに寄り道できる場所が無くなり寂しい。今は足を運ぶことができないが、何らかの形で支援できれば」と話す。

 刻一刻と状況が変化するため、金子さんは営業時間についてさらなる短縮、または休業も視野に入れているという。「映画文化を守ること、娯楽文化を守るという意味でも、どのようにするのが最善なのか。非常に葛藤している」と難しい判断を迫られている。

「映画館というスペースは老若男女問わず、さまざまなお客さまに支えられている文化・娯楽施設だと考えています。昨年は日本の映画興行収入が2,611憶円と最高記録を更新しました。映画館から足が遠のいていたお客さまにも、映画の楽しさ、素晴らしさが伝わった。その最中でのコロナショックとなってしまいました。娯楽が少ないといわれる地方都市において、映画の役割は非常に大きい。映画鑑賞で個性や感性を育むことは、生活するうえで失ってはいけないものであると強く感じています」

富山の映画文化に携わってきた樋口裕重子さんの想い


射水の文化施設「Letter」内で行われた三宅唱監督のトークショー

 富山の映画文化に長らく関わってきた樋口裕重子(ゆちこ)さんも、ミニシアターを無くしてはならないと訴える。

「多様な映画が作られ、それらを送り出し、受け止める場としてミニシアターは日本の映画文化の生態系を支えています。どこの劇場も地域に根ざしていて、とてもユニークです。ミニシアターのおかげで、行ったことのない国の、知らない人たちの人生に触れることができる。そういう開かれた場が街には必要です」

 樋口さんはかつてスタッフとして「フォルツァ総曲輪」に在籍していた。同館は2007年、富山市中心市街地にある富山初のミニシアター&ライブホールとして誕生。全国的にも稀な官民連携の映画館として注目を集めた。それまで富山では上映されてこなかった社会派ドキュメンタリーや、実験映画、文芸作品などがラインアップされた。

「フォルツァに在籍していた頃から、日本のインディペンデント作品を地方の映画ファンに届けたいと思ってきました。たとえ無名監督であっても作品を上映し、動員を伸ばすことで、日本の映画文化を応援することにつながる。それは劇場を運営していくうえでも、お客さんと映画との関係性を築くうえでも大事だと今でも考えています。企画が通らず、自腹で上映会を催したこともありました」

 フォルツァの客層はシニア層が8割以上を占めており、ほぼ毎日通う地元の人たちも少なくなかった。「針に糸を通してほしい」「湿布を貼ってほしい」と頼まれたこともあったという。お客さんにとって同館は互いの安否を確認する大切な場所でもあった。

「映画は人と世界をつなぐ窓のようなもの。そして映画がかかる場所というのは、地域と人をつなぐ『銭湯』のような役割を担うと思います」

 ミニシアターとしてだけでなく、地域の人たちの寄合所であり、市民アーティストの発信地でもあったフォルツァだが、2016年2月の富山市議会で助成金の打ち切りが決定してしまう。同年9月をもって休館となった。運営資金を捻出できなかったことや、近隣にJマックスが開業すること、建物の老朽化などが理由とされた。フォルツァに通っていた市民たちは突然の知らせに驚き、落胆した。

「フォルツァ総曲輪」休館後も独自に自主上映会を企画

手話を交えた「もうろうをいきる」のトークショー


客席には盲導犬の姿も

 しかしフォルツァ休館後も、樋口さんは射水市の文化施設「Letter」を拠点に自主上映会を企画していく。「きみの鳥はうたえる」の三宅唱監督や亡き若松孝二監督らの特集上映会といった、映画制作にまつわるゲストを招いたトークショー、ワークショップを積極的に開催する。富山出身の西原孝至監督が手掛けたドキュメンタリー「もうろうをいきる」の上映会では、視覚・聴覚障がいのある人たちと共に映画を鑑賞。字幕や手話の表示、音声ガイド再生ができるアプリケーション「UDCast」の周知にも一役買った。公共ホール「富山市民プラザ」(富山市大手町)では、鈴木卓爾監督の特集上映会を企画。俳優の井浦新さんがステージに登壇し観客を沸かせた。

「ミニシアターは多様な価値観を映画という表現で発信することができ、そして誰もがその表現を受け取ることができる場所です。小さな街とはいえ、そういう開かれた場が存在するということは、自分たちが暮らす街を豊かに作っていくことにつながると考えています」


フォルツァ時代から樋口さんと親交がある俳優の井浦新さん

 樋口さんは現在、HOTORI×ほとり座の作品選定、宣伝、企画を担当している。新ほとり座の運営にも携わっていくという。行政の支援を受けられないまま、コロナ禍を乗り切れるかとても不安だと吐露する一方、多くの映画人たちが全国のミニシアターを支えようとする試みに励まされているという。コロナが終息した際には、多くの人に劇場に足を運んでほしいと願う。

「新ほとり座では、デジタルとフィルム両方の上映が可能になります。作品の幅はこれまで以上に広がり、さらに映画ファンを魅了することができると思います。車いすのお客さまもスムーズにご入場いただけますし、おむつ替えできる広いトイレも設置してあります。これまで以上に多くの方にご来館いただけるよう、スタッフみんなで環境を整えていきたいです」

ほとり座、Jマックスそれぞれの「SAVE THE CINEMA」

ミニシアターの支援を求めるプロジェクト「SAVE THE CINEMA」

 ほとり座は、ミニシアターへの支援を国に求める「SAVE THE CINEMA」にも賛同している。同プロジェクトには、4月6日から9日間で66,828筆の署名が集まった。4月13日に始まったクラウドファンディング「Mini-Theater AID基金」はわずか3日間で目標額1億円に到達した。支援金はプロジェクトに賛同する各地のミニシアターに平等に分配されるという。

 ドキュメンタリー監督の想田和弘さんは最新作「精神0」を、劇場公開と共に有料デジタル配信すると告知。オンライン上で支援したい映画館を選択すれば、当該館にチケットの収益が入る仕組みだ。こちらにもほとり座は参加している。「どれも素晴らしい取り組み」と田辺さんは話す。

 「自らアクションを起こし、それに賛同者が集まって大きな波へと変貌している。自分もやれることをやり続けようと思います。新ほとり座は、僕やスタッフにとっても新しい挑戦。シネコンとの共存共栄を目指し、ミニシアターならではの魅力や交流を生み出せればと思っています。それが富山の文化向上につながれば最高です」

「わたしは光をにぎっている」公開時の中川龍太郎監督とJマックススタッフらの集合写真

 ミニシアターではないものの、Jマックスの支配人である金子さんも「SAVE THE CINEMA」に賛同する。

「非常に素晴らしい取り組みだと感じています。映画人たちが立ち上がってくれたことで、何としてでも映画文化を残さねばならないという強いメッセージが伝わってきます。今後はミニシアターだけでなく、大手、中堅シネコンも一丸となって、映画文化を守っていくことができればと願います」

 同館では無期限で使える映画鑑賞券や、お得に映画を鑑賞できる会員カードを発行している。こちらを購入するのも支援の一つだ。映画鑑賞に欠かせないポップコーン、チュリトスのテークアウトも行っている。「STAY HOMEしながら、ご自宅で少しでも映画気分を味わっていただけるとうれしい」と金子さんは話す。

 今は映画館へ気軽に足を運べない。だが何もしないままでは、コロナが終息した先の未来に、映画館という暗闇と光を併せ持った居場所は街から失われているだろう。現在、「SAVE THE CINEMA」への署名、「Mini-Theater AID基金」の受け付けが継続している。私たちにできることは早急な支援を国に訴えること、そして自分なりの形で映画館へのエールを送り続けることだ。

 

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