富山で唯一のミニシアター「フォルツァ総曲輪」(富山市総曲輪3、TEL 076-493-8815)が9月末、休館する。
「映画文化を絶やさない」ことを目的に、富山市の第三セクター「まちづくりとやま」が運営している「フォルツァ総曲輪」は、市に寄贈された旧「WIZシネマ」ビルの一部を活用し、独立系の配給作品を中心とした映画館、ライブホール、カルチャー教室を併せ持つ複合文化施設として2007年に誕生した。
同施設ではこれまで商業ベースに乗らないアート作品やカルト作品、社会派ドキュメンタリー作品、カンヌ国際映画祭受賞作品など個性豊かなラインアップを展開してきた。
「インディペンデント映画の父」と称されるジョン・カサベテス監督や、旧ユーゴスラビア出身のエミール・クストリッツァ監督、フランス人喜劇役者のジャック・タチ、若松孝二監督などの特集上映会のほか、挑発的な作品を集めた「不識図鑑」シリーズ、ドラァグクイーンのヴィヴィアン佐藤さんとのコラボイベントなどの独自企画や、富山出身の監督作品も積極的に上映。街中文化の発信拠点としての存在感を発揮してきた。
一方で、当初の予定では一日300人の集客を見込んでいたものの、近年は年間約3万人にも満たない入館者数にとどまっており、運営費の3分の1を市の補助金に頼ってきた。今年6月には同地区にシネコン「J MAX THEATER(ジェーマックスシアター)とやま」がオープンすることもあり、行政判断により休館が決定した。
富山市在住の映像制作業・島倉和幸さんは「フォルツァは文化を紡ぐかけがえのない場所」として、休館を惜しむ市民の声を反映しようと「フォルツァ総曲輪の未来を考える会」を発足。休館決定に至った経緯や、営業再開に向けた計画を問う書状を富山市に宛て提出した。
3月末には考える会の第1回ミーティングを開き、約50人の市民が集まった。参加者からは存続を求める声が多く上がりつつも、補助金頼りの経営体制を問う厳しい意見も出たという。今後はクラウドファンディングのサイトの活用や、NPO運営などを模索していくという。
富山市在住の50代男性は「近くにシネコンができたから、ミニシアターを休館するという行政の考えには納得できない。作品のジャンルも映画館としての個性も違う」と話す。
同70代女性は「さまざまな国の作品が見られるのが魅力で、ずっしりと心に残る作品が多かった。最近はお客さんも増えてきたと思っていたのに」と休館を惜しむ。
同30代女性は、「亡き若松監督や『野火』の塚本晋也監督、俳優の奥田瑛二さん、安藤サクラさん、井浦新さんなど、フォルツァを訪れた映画人は多い。映画作りの話を直接聞けてうれしかった」と振り返る。
島倉さんは「フォルツァは監督たちと交流する機会や、客同士で映画を語り合える場を積極的に設けてきた。たとえ5人しか観客がいなくても、文化の発信地としてフォルツァを守っていくことは必要。行政と協力しながら、ミニシアター系の映画が見られる方法を見つけたい」と意気込む。